そんな立甲の獲得方法を、肩と上腕の「垂直間」と「脱力感」の2点からご紹介します。
今回は、私の記事で何度かご紹介した、【立甲(りっこう)】について詳しくまとめてみます。
立甲とは、肩甲骨が浮き出て、立っている状態を指します。その仕組みや、立甲できる体に向けてのアドバイスをご紹介します。
立甲によって期待できるのは、肩こりや肩関節の痛み(四十肩・五十肩など)だけではありません。日常生活からアスリートのパフォーマンス向上にまで有効な立甲を、ぜひご自身の体で実感してみてください。
目次
立甲(りっこう)ー肩甲骨を立たせるメリット
そもそも一般的には、「肩甲骨を立たせる」や「立甲」といった考えがあることすら知らない人が多いです。
立甲とはどんな状態を指し、それによって体がどう変わるのかをご紹介します。
立甲とはどんな状態なの?
上の画像のように、肩甲骨が肋骨から離れ、立っている(浮いている)状態を立甲と言います。
肩甲骨は元々自由度の高い骨なので、周囲の筋肉の柔軟性が高ければ立甲は可能です。しかし、肩周りの筋肉のかたさやコリ、背骨を含む柔軟性の低下により、肩甲骨の可動域は低下してしまいます。
画像と同じような姿勢をとってみて立甲しない場合、立甲できるようになると、多くのメリットがあります。
- 首・肩のコリの解消。
- 肩の可動域の拡大。痛みの予防(四十肩・五十肩など)
- 運動・競技パフォーマンス向上。
立甲によってなぜこのようなメリットがあるのか、肩の「ゼロポジション」を踏まえて確認していきましょう。
立甲とゼロポジションの関係
肩甲骨にある肩甲棘という骨構造と、上腕骨を真っ直ぐに保つ状態を「ゼロポジション」と言います。
ゼロポジションには2つの意味があります。
- 肩甲骨と上腕骨の解剖軸と機能軸が一致する。
- 上腕骨の内外旋がない。
どちらも、肩周りに余計な筋緊張がない状態を指します。
肩甲骨を立たせる立甲を獲得すると、様々な動きをゼロポジションで行うことができます。すると、肩周りの筋肉に無駄な力を使わせずに、腕や手を動かすことができます。
腕の付け根である肩甲骨から腕を動かすことで、可動域は大きくなります。可動域が大きい分、手先に伝わるエネルギーは大きくなります。投球動作や、バレーボールのアタックのような動きには、立甲は不可欠です。
手を使う競技以外のスポーツでも、一般的な家事などの動作の中にも、立甲の獲得が望ましい場面が多くあります。「力まずに最大効力を出力できる」立甲は、あらゆる場面で重視されるようになりました。
立甲のデメリット・注意点
肩甲骨が浮き上がり立った状態である「立甲」に似たもので、「翼状肩甲」があります。
前鋸筋が麻痺すると、肩甲骨の内側縁が浮き上がって翼状肩甲骨となり、腕を前方へ挙上できなくなります。
日本整形外科学会『翼状肩甲』より引用
立甲は前鋸筋の柔軟性と収縮力によって成り立つ動作です。一方、翼状肩甲は前鋸筋の機能不全(麻痺など)によって起こります。引用文にあるように、「肩甲骨を浮かせる」動作であっても、周囲の筋肉の柔軟性や収縮力が維持された状態でなければ逆効果になります。表現を変えれば、立甲は「肩甲骨を浮かせることができる」、翼状肩甲は「肩甲骨が浮いてしまう」となり、両者には大きな違いがあります。
運動機能やパフォーマスの向上を目的とするときには、しっかりと「立甲」をしなければなりません。
立甲の方法ーどのように肩甲骨を立たせるのか
実際に肩甲骨を立たせ、立甲を獲得する簡単な方法をご紹介します。最初のうちは余計な力が入ってしまい、うまくできないかもしれません。
脱力を意識して試してみてください。
うつ伏せで肘をつく
うつ伏せ(腹ばい)になり、脱力をしたまま、肘だけをついて体幹部を浮かせてみてください。難しければ、膝をついていても構いません。人によって、膝をつけているのと膝をつけないのとで、やりやすい方があります。
この時、肩周りの筋肉に無駄な緊張が入らず、うまく床からの反力を肩甲骨の方に抜くことができると、肩甲骨が体幹部から離れ、浮いてきます(画像①)。これが、立甲の基本的な構造です。
肩周りの筋肉に余分な力が入っていたり、姿勢が崩れていると、立甲せずに筋力で体を支える構造になってしまいます(画像②)。
うつ伏せで掌をつく
肘をつく立甲ができるようになってきたら、掌をついて試してみてください。
肘をつく場合と比べて、肘関節と手首・手指の関節が加わるため、体重を肩甲骨に伝える難易度が上がります。床からの反力を、手首や肘のところで抜かず、肩甲骨の方までしっかりと伝えていくと、立甲することができます。
日常生活やスポーツ中に肩を動かす時、床に手をつき立甲させて何かを行うことはありません。しかしこうして腕を動かす時に肩甲骨の方まで連動する意識を持つことが、痛みや怪我の予防からパフォーマンス向上まで幅広く重要になってきます。
立甲の獲得に必要な「垂直感」と「脱力感」
立甲による効果は、首や肩・腕周りだけではありません。特にアスリートのように競技に挑む場合、様々な面でパフォーマンスを向上させるきっかけになります。
ここからは、実際に立甲のストレッチなどを行った感覚として、皆さんに意識してもらいたいことをご紹介します。一般の人に意識していただきたいのは、「垂直感」と「脱力感」です。
「垂直感」真っ直ぐ立ててますか?
立甲をする際に必要な感覚の一つに、「垂直感」があります。
肘や掌をつき体を支えた時、手指や手首、肘の位置で関節が曲がっていると、その位置で力は抜けていってしまいます。すると、抜けていく反力に対して体を支えるために、より力を入れる必要があります。結果的に、必要以上の力が入ってしまい、肩甲骨は浮いてくるどころか、より固定されるように筋収縮が起こります。
肩甲骨と上腕骨の軸が一致しているゼロポジションに、肘や手首を合わせて、肩甲骨から手先まで全てをゼロポジションに持っていきましょう。これが可能になれば、反力は全て肩甲骨の方にまで届き、立甲に近づきます。
「脱力感」力が抜けてますか?
垂直感に加えて立甲に必要な感覚に、「脱力感」があります。
こちらは垂直感よりも実感しやすいはずで、読んで字のごとくとにかく力を抜くことです。私たちの体は、普段の生活のクセや偏りによって、無意識のうちに緊張してしまっています。肘や手をついて肩がゼロポジションにおさまった時、肩周りの筋肉に力を入れなくても体を骨の連結のみで支えることができます。その結果、肋骨の上にのっているだけの肩甲骨が押し出されるように浮いて、立甲の状態になります。
肩周りの筋肉に力が入っていると、肩甲骨を肋骨から離さないように働いてしまいます。つまり、立甲の獲得を目指して脱力をすることが、肩周りのストレッチになると考えられます。
おわりに
私たちの体は、無駄な力みなく、ある程度大きな力を出せるようにできています。しかし、姿勢の崩れや、体の使い方、クセなどが原因で、自然と無駄な緊張が起こってしまいます。
そうした緊張によって生まれる痛みやパフォーマンスの低下を、ストレッチやトレーニングによって改善しようとし、悪循環に陥る人が多くいます。
立甲の獲得を通して、「体の力を抜くこと(脱力感)」を体感してみてください。そして、その上で体を動かした時の動きの違いや出力の違いを比べてみてください。
体が本来持つ力を少しでも引き出せるよう、少しずつ立甲のストレッチを取り入れてみてください。
鍼灸指圧治療院あたしんち
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