まずは知っておいて欲しい、鍼灸治療や漢方のベースとなる東洋医学の話

鍼灸治療や漢方、そのベースとなる東洋医学というと、古臭く、時に胡散臭く感じる人が多いと思います。しかしその一方で、「治らない」と言われた疾患や病が、鍼灸や漢方で改善した例を耳にしたことがありませんか?

まずは私たちが提供する鍼灸治療のベースとなる、東洋医学についてご紹介します。

「鍼灸治療を受けてみようかな?」と考えている人や、「体に優しい養生を取り入れたい」という人は、ぜひご参考ください。

小難しい話が続くので、少し文調は崩してまとめていきます。

私たち鍼灸師・東洋医学家は何を治したいのか

まずはここから説明すると入りやすいと思います。

第一に、私たちが特定の疾患や病(診断されるもの)を治療することは、基本的にありません。これは、国家資格の形態の違いからもそうなんですが、一番に、私たち鍼灸師は一般的な病名でその症状を捉えることがないからです。

東洋医学において、病気になる原因は限定されている

東洋医学において、病気の原因は大きく、「外因」、「内因」、「不内外因」にわかれます。

  • 外因:気候(外環境)の変動による体の変化。風・寒・暑・湿・燥・火の6つの邪が体に悪影響を及ぼす。
  • 内因:内面(メンタル面)の変化による体の変化。怒・喜・思・悲・憂・怒・驚の7つの感情(七情)の乱れが体に悪影響を及ぼす。
  • 不内外因:飲食の不摂生、行き過ぎる過労や怠惰、性行為の不摂生、外傷や怪我、五労(行・視・座・臥・立)などが体に悪影響を及ぼす。

例えば一言に「風邪」といっても、病因からなぜ「風邪」の症状が出ているのか、出ている症状から体がどんな状態なのかを推察していくのが、東洋医学の考え方です。一見すると面倒な手順を踏み、環境や自分の体調を鑑みて、一つ一つ解決していくからこそ、「根本から治療するなら東洋医学」という考えが定着してきたのかもしれません。

つまり、「風邪」を治療するのではなく、「風邪をひいてしまう体」を治療していく、ということです。

だからこそ、養生が一番にくる

東洋医学の理想は「未病治」、すなわち「病む前に治す」ことにあります。それは前述した通り、「体調を崩した状態」はそれまでの生活の結果であり、理想は「体調を崩さない状態」でいることだからです。そこに、東洋医学の養生訓があります。

食事・運動・睡眠。まずは私たちの体の基礎を作る3つの要素を大切にしましょう。

 

と、そう簡単に締めくくれないからこそ、皆さん多くの症状を抱え、色々な治療法や養生を試し、こうして東洋医学などに行き着いたはずです。

そう、日々の疲れ、ストレス、人間関係など、何かと生活がしにくくなった現代です。「野菜を食べると体に良い」、「運動をすると体に良い」、わかってはいるものの、それをする時間もない、心身的な余裕もない日々が続くのは、こうして講釈をたれている私も同じです。

ここからはもう少し踏み込んで、東洋医学の世界を紹介していきます。

そもそも目に見えない「気」などを扱う東洋医学

「気」というと、目に見えず、何だか嘘くさく感じる人が多くいると思います。鍼灸師である私にも、まだまだつかめていません。疑い半分で治療をしています。

気・血・津液・精のバランスを整える

「気の巡りを良くする」とはよく聞くと思いますが、こうした体を巡るエッセンスは他にも、血・津液・精があります。

  • :エネルギー、活動力。
  • :体を栄養する、潤す液体。西洋医学の血液に近い。
  • 津液:体を潤す液体。
  • :生命力の源。気の源。

「体が元気で健康でいる」ということは、これら気・血・津液・精が過不足なくバランスがとれていて、うまく巡っている状態を指します。反対に、気・血・津液・精の過不足や停滞が起こると、体にはサインが届くように症状が現れます。

気・血・津液・精の乱れによる症状

気・血・津液・精、それぞれの要素の過不足や停滞による症状をピックアップしてみます。

【気虚・気滞】気の過不足

気の不足である気虚は、簡単に言えばエネルギーの不足です。

  • 疲れやすい、息切れしやすい、だるい、やる気が起きない。
  • 疲れると体調がますます悪化する。
  • 何もしなくても汗が出る。
  • 寒気を感じる。

また、気は後述する血や津液の生成・循環にも関わるため、多くの症状に関与します。

気の停滞である気滞は、気の巡りが悪化し、モヤモヤとする様子です。下記のような症状が現れます。

  • 胸や脇の脹痛、膨満感。
  • げっぷやおならが多い。
  • 情緒が不安定、怒りやすくなる。
  • 感情の変化で悪化する。

「気の巡り」と簡単に言いますが、出てくる症状は多岐にわたり、また多くの症状のベースに気滞があります。

【血虚・血瘀】血の過不足

血の不足である血虚では、いわゆる貧血症状に近い症状が出ます。

  • 顔面蒼白、めまい、立ちくらみなどの貧血症状。
  • 手足の冷え、しびれ、つり。
  • 爪や髪がもろくなる。
  • 眼精疲労。

血瘀は血が停滞している状態を指します。下記のような症状が現れます。

  • 刺すような痛みがある(刺痛)。
  • 同じ部位がずっと痛む(固定痛)。
  • 夜間に痛むことが多い(夜間痛)。
  • 揉まれたくない(拒按)。
  • 血の色が悪い(紫暗)・血塊が出る。
  • 肌の色が青紫色。

イメージとしては、内出血が起こっている状態に近い状態です。例えば四十肩や五十肩による痛みも、東洋医学的には血瘀による痛みに近いと考えます。

【乾燥・湿痰】津液の過不足

津液は体内の水分のうち、血以外の部分と考えて問題ありません。津液が過剰になれば、下記のような症状が現れます。

  • 浮腫(むくみ)がある。
  • 下痢気味である。
  • 痰絡みの咳が出る。
  • 多尿傾向。

一方、津液の不足は水分の不足なので、一般的な乾燥に近い症状が現れます。

  • 肌の乾燥。
  • 髪の毛がパサパサする。
  • 便がかたくなる。

【腎精不足】精の不足

精は生命力の源であり、気の源でもあります。生まれつきの不調や体質の多くは精の不足によるものと考えられ、食事や生活習慣でこれを補うことが重要になります。また、加齢によって精は枯渇していくため、老化現象に対しても同様の考え方が大切です。

  • 歯や骨の弱さ、不調など。
  • 脱毛、白髪など髪の毛の不調。
  • 尿漏れ、おねしょなど泌尿器の不調。
  • 月経不順、インポテンツなど生殖器の不調。

その時に出ている症状が、こうした気・血・津液・精のどの要素の問題なのかを、こうした特徴から推察していきます。そして、気・血・津液・精のバランスを、ちょうど良いところに保つのが、五臓六腑の働きです。

気・血・津液・精。そのバランスを決めるのが「五臓六腑」

「五臓六腑」というと、現代医学・西洋医学にも近づき、少し親しみやすくなると思います。前項で触れた気・血・津液・精を、過不足なく、停滞させずに循環させているのが、五臓六腑です。つまり、気・血・津液・精が不足、停滞するには、その原因となる五臓六腑の働きの低下があります。

五臓六腑を整えるのが、東洋医学における治療

鍼灸や漢方など、東洋医学における治療とは、こうした気・血・津液・精の過不足を調整し、五臓六腑を整えることだと言えます。

気・血・津液・精と、それに関わる五臓六腑の仕組みを簡単に紹介します。

五臓の肝

五臓の肝は気の巡り、血の巡りをつかさどる臓器です。気を滞りなく循環させることで、他の臓器の働きの調整も行います。また、血を貯蔵しておき、必要なところに送る量を決定する働きも肝によるものです。

このことからも、肝は気や血に関与し、その結果として他の臓腑とも関係してくる特徴があります。

五臓の心

五臓の心は、一般的な心臓としての働きのほか、精神活動の取りまとめとしての「ココロ」の働きを持ちます。また、心はポンプとして動くことで熱を生み、その熱が他の臓腑や体全体を温める働きもあります。

心は特に、気や血に関与する臓器だと考えられます。

五臓の脾

五臓の脾は、胃と協力して飲食物の消化や吸収を取りまとめる働きがあります。飲食物から得られる栄養素を腎に届け、精として貯蔵してもらいます。また、一部を気や血にかえ、全身を栄養するために使います。

そのため、脾は気・血・精に関与する臓であり、さらに水分をためこむ性質もあるため、津液の過不足にも関わります。

五臓の肺

一般的な呼吸器としての肺だけでなく、鼻、のど、気管など、呼吸に関わる全ての器官を含めて、五臓の肺と考えます。呼吸によって外から新鮮な気を取り込み、脾が運搬した水分を体表に巡らせ、皮膚に潤いをもたせる働きがあります。

このことからも、肺は特に気・津液に関与する臓器だと言えます。

五臓の腎

西洋医学で腎臓と言えば、泌尿器として尿を作り、排泄するための器官です。東洋医学においてもこうした泌尿器としての働きはありますが、他にも特徴的な「精を貯蔵する臓器」としての働きがあります。生命力の源である精を貯蔵する臓器として、腎は重要な役割を果たしています

つまり、気・血・津液・精のうち、特に精に関する不調がある場合は、五臓の腎の働きを整える必要がある、ということになります。

五臓のチェックリストから、五臓の不調を知る

実際に鍼灸治療の問診時に確認する、五臓の働きを知る項目を紹介します。あくまで各項目とも問診の一部で、他にも目で見てわかることや、脈、舌、お腹のかたさなどから、五臓六腑の働きを知り、治療に役立てます。

五臓の肝のチェックリスト

五臓の肝の働きをはかるための、東洋医学的なチェックリストを紹介します。

  • めまいがすることがある。
  • 怒りっぽい性格である。
  • ストレスによって血圧が上がりやすい。
  • 目が疲れやすい・乾きやすい。
  • 筋肉がよくつる。
  • 爪の形や色がよくない。

該当する項目が多い場合、肝の消耗・働きの低下があると考えられます。

五臓の心のチェックリスト

五臓の心の働きをはかるための、東洋医学的なチェックリストを紹介します。

  • 胸が苦しくなることがあり、動悸が起こりやすい。
  • 不眠気味で、夢をよくみる。
  • 精神的に動揺しやすい。
  • よく舌が荒れる。
  • あせっかきで、寝汗もかく。
  • 物忘れが多い。

該当する項目が多い場合、心の消耗・働きの低下があると考えられます。

五臓の脾のチェックリスト

五臓の脾の働きをはかるための、東洋医学的なチェックリストを紹介します。

  • 食後にお腹がはる。
  • 立ちくらみが起こる。
  • 食欲がない。
  • 下痢気味である。
  • 腹痛が起こりやすい。
  • 痔や脱肛になったことがある。

該当する項目が多い場合、脾の消耗・働きの低下があると考えられます。

五臓の肺のチェックリスト

五臓の肺の働きをはかるための、東洋医学的なチェックリストを紹介します。

  • 息苦しいことがあり、少し動くと息切れする。
  • 普段から咳、痰が多い。
  • 鼻づまりになりやすい。
  • 喘息持ち、または喘息持ちだった。
  • 声が小さい、声に力がない。
  • 風邪をひきやすい。

該当する項目が多い場合、肺の消耗・働きの低下があると考えられます。

五臓の腎のチェックリスト

五臓の腎の働きをはかるための、東洋医学的なチェックリストを紹介します。

  • 足腰がだるくなりやすい。
  • 尿の回数に偏りがある(頻尿・無尿)。
  • 記憶力が低下している。
  • 耳が聞こえづらくなった。
  • 老化現象が気になる。
  • 骨密度が低下している、骨が弱くなった。

該当する項目が多い場合、腎の消耗・働きの低下があると考えられます。

参考:「東洋医学のしくみ」.兵頭明(2010)

症状から、気・血・津液・精、五臓六腑を整えるのが東洋医学の治療

例えば、下記のような症状・不調がある場合を考えてみます。

「最近めまいや立ちくらみがして、顔色が良くない。デスクワークで目の疲れを強く感じ、ストレスがたまっている気がする」

要素のみをピックアップして例としたので、わかりやすくなっていますが、「めまい・立ちくらみ・顔色の悪さ」は【血虚】によって起こる症状です。そして、「目の疲れ・ストレス」は五臓の【肝】を消耗しているサインです。

こうして、治療としては【血を補う】働きのある経穴(ツボ)を刺激したり、五臓の肝の経絡やツボを刺激し、肝の働きを整えていきます。これが、鍼灸治療の大まかな流れです。

もう一度、養生の話

私たち鍼灸師の治療に対する考えをまとめました。

しかし、例えばこうした気・血・津液・精の過不足や停滞による症状の特徴や、五臓六腑の働き、五臓六腑の消耗によって起こる不調などがわかっていれば、ご自身で体調を整えることができると感じませんか?

【食事・運動・睡眠。まずは私たちの体の基礎を作る3つの要素を大切にしましょう。】

だいぶ前の項で、このようにアドバイスをしました。

お体の状態を自分で確認できれば、その時に運動が必要なのか、休息が必要なのかを判断することができます。その判断が、明日以降の皆さんの体の状態を良くしていきます。

また食事では、それぞれの食材の特徴や、気・血・津液・精、五臓六腑への効果を知ることで、自分の体質・体調に合わせた食事を考えることができます。漢方に用いる生薬と同様、それぞれの食材に、それぞれの働きがあります。
「●●が体に良い」という健康情報に踊らされることなく、自分の体に良いものを食べることで、より良い明日を迎えることができます。

私たち鍼灸師が介入できるのは、ひとときのみ

「鍼灸治療を毎日受けている」という人に、私は出会ったことがありません。

私たち鍼灸師が皆さんの体調に介入できるのは、ほんのひとときです。そこでできるのは、「症状を無くす」ことより、「症状が無くなる体の状態にする」という方が近い印象です。

「次の治療の日に、先生に褒めてもらえる状態で来ます」

こうした養生の考えは、患者さんの姿勢に教わったところが大きくあります。一通り治療を終え、気をつけて欲しい食事や生活をお話ししたところで、「次の治療の日に、先生に褒めてもらえる状態で来ます」と言われたことがあります。

その時に、私たちが介入できるのはほんのひとときに過ぎず、やはり皆さんの日々の過ごし方が重要だと改めて感じました。週に1度、月に1度、答え合わせをするようにそれまでどう過ごしたのかを聞かせてもらい、これからの過ごし方を話しながら治療をする、そのひとときが、何とも言えず楽しいものです。

ひととき以外の時間に向けた、養生発信を

あれがよい、これがよい、多くの情報があり、果たしてどれが自分に合っているのか、正しいのかを考える余裕もありません。一つ確かなのは、「万人に良いもの」はなく、「常に良いもの」もありません。

私たちの体は、一人一人違い、一瞬一瞬で違います。

ご自身の体と向き合い、どうしていけばより良い明日を迎えられるのか、そんなことを考える一助にと、色々な養生訓を発信していきます。

「こんな風に気をつけてきました」、「でも、こういう症状が残ってしまってなかなか良くなりません」

そんな風に、いつの日か「あたしんち」でお会いできる日を楽しみにしています。

 

鍼灸指圧治療院あたしんち