東洋医学における五臓の腎の病証と症状。その治法のまとめ

腎の病証まとめ 五臓六腑

五臓の腎の病証として、「腎陰虚」、「腎陽虚」、「腎精不足」、「腎不納気」、「腎気不固」があります。まとめると、下記の通りになります。

  • 腎陰虚:腎の失調+陰虚
  • 腎陽虚:腎の失調+陽虚
  • 腎精不足:腎の失調+精の不足
  • 腎不納気:腎の失調+納気の低下
  • 腎気不固:腎の失調+固摂の低下

同じ腎の病でも、原因や現れる症状は様々です。しかし、その原因を特定し、それにあった治療を施すことが大切だと東洋医学では考えています。

 

東洋医学において、泌尿器・生殖器疾患、歯や骨の弱化、足腰の不調を指標に五臓の腎の失調を疑い、治療を進めるとまとめました(「東洋医学の腎の働きと養生」)。また、こうした五臓六腑だけでなく、体を循環している気・血・水・精の過不足や停滞も、体調の変化につながります(「東洋医学の気・血・水・精のまとめ」)。

この記事でまとめるのは、こうした臓腑の失調プラス気・血・水・精の失調によって、体はどのような状態になるのか、その治療法はどのように考えるのかについてです。

五臓六腑の働きは、気・血・水・精が過不足や滞りなく循環する上で成り立ちます。また、その気・血・水・精も、五臓六腑の働きを受けて生成・循環しています。体に起こる症状や指標を捉え、どこの臓腑の問題なのか、どのエッセンスの過不足なのかを判断することで、より的確な治療を行うことができます。

その中でも、五臓の腎と気・血・水・精のバランスによって起こる病証と、その治法についてまとめていきます。

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東洋医学における五臓の腎の特徴をおさらい

五臓の腎には、「蔵精(ぞうせい)」と「主水(しゅすい)」、「納気(のうき)」という働きがあります。

  • 蔵精:生命力の源である「精」を貯蔵する働き。
  • 主水:水分代謝に関わる働き。
  • 納気:呼吸によって得た気を腎に納める働き。

五臓の腎は生命力の源である「精」を貯蔵している点と、「陰陽の根本」として体の陰陽のバランスをつかさどる点が特徴的です。腎の働きが低下することで、こうした腎の持つ働きも悪くなってしまいます。

また、「五臓之傷、究必及腎」と言われ、他の臓の虚はすべて腎に影響を及ぼすと考えられています。

【腎陰虚】腎の失調+「陰虚」

五臓の腎の働きの低下と、陰陽のバランスの悪化による「陰虚(いんきょ)」があわさると、「腎陰虚」になります。陰陽の根本である腎のバランスが崩れるため、症状としては強く現れる印象です。

腎陰虚の症状

  • 腰や膝に力が入らない(腰膝酸軟)
  • 不眠
  • 健忘・知力の低下
  • 耳鳴りや難聴
  • 髪の毛が抜けやすくなる
物忘れが多くなり、夜に眠れないことも。そういえば髪の毛も薄くなってきたなぁ。

腎陰虚においては、腎の陰液である「精」も不足しています。この精をもとに「髄(ずい)」が生まれ、脳を栄養しているため、腎陰虚では健忘や知力低下などの大脳機能の低下がみられます。睡眠障害もよくみられます。腎は耳や髪の毛をつかさどるので、耳鳴りや難聴、髪の毛の脱毛も起こります。

腎陰虚の治法は「補益腎陰」。ツボは太渓や復溜がオススメ。

腎陰虚を治療する方法を、「補益腎陰(ほえきじんいん)」と言います。腎を元気にして陰気を補いましょう、という方法です。

治療として補益腎陰を目指す場合、腎に所属する経穴(ツボ)である「太渓(たいけい)」や「復溜(ふくりゅう)」を用います。

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【腎陽虚】腎の失調+「陽虚」

五臓の腎の働きの低下と、陰陽のバランスの悪化による「陽虚(ようきょ)」があわさると、「腎陽虚」になります。腎陽虚の場合も、陰陽の根本である腎のバランスが崩れるため、強い症状が現れます。

腎陽虚の症状

  • 腰や膝に力が入らない(腰膝酸軟)
  • 冷え
  • 男性生殖器の問題(インポテンツ・早漏など)
  • 明け方の下痢(五更泄瀉)
  • 夜間多尿
足腰がダルく、冷えがちで夜にトイレに何度も起きる。高齢者に多い印象です

腎陽が不足してしまうと、「命門火衰(めいもんかすい)」と言って生命機能・生殖機能が低下してしまいます。体を暖かく保つ機能が低下し、四肢の冷えが強く現れます。また、生殖機能の減退、冷えによる下痢や多尿が特徴的です。

腎陽虚の治法は「補益腎陽」。ツボは腎兪を温める。

腎陽虚を治療する方法を、「補益腎陽(ほえきじんよう)」と言います。腎を元気にして陽気を補いましょう、という方法です。

治療として補益腎陽を目指す場合、膀胱に所属する経穴(ツボ)である「腎兪(じんゆ)」を温めることが多いです。

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【腎精不足】腎の失調+精の不足

五臓の腎の失調によって、腎の働きの一つである「蔵精」がうまくいかなくなります。その結果、「腎精不足(じんせいぶそく)」という状態になります。腎精不足は腎の気虚と考えられることもあります。

腎精不足については、詳しくまとめた個別の記事もありますので、合わせてご覧ください。

腎精不足の症状

  • 年齢にそぐわない老化現象
  • 年齢に適さない発育状態
  • 生殖機能の減退
「年齢より老けて見える」とよく言われる人は腎精不足の可能性あり

生命力の源である精が不足している状態なので、成長期においては発育不良を疑うような症状が現れます。低身長や夜尿症、小児期の喘息などは、腎精不足が根底にあることがあります。また、成長期以降においては、髪の毛が抜ける、歯や骨が弱くなるなど、年齢にそぐわない老化現象が起こります。

また、精を後世に伝える生殖能力も低下してしまいます。インポテンツや不妊症など、本人の精が十分でないと、後世に受け継ぐ能力は低くなります。

腎精不足の治法は「補益腎精」。ツボは復溜がオススメ。

腎精不足を治療する方法を、「補益腎精(ほえきじんせい)」と言います。腎を元気にして精を補いましょう、という方法です。

治療として補益腎精を目指す場合、腎に所属する経穴(ツボ)である「復溜(ふくりゅう)」を用いることが多いです。

▶︎腎精不足の症状や対策を詳しく確認する

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【腎不納気(肺腎気虚)】腎の失調+「納気」の低下

五臓の腎の失調によって、腎の働きの一つである「納気」がうまくいかなくなります。その結果、「腎不納気(じんふのうき)」という状態になります。腎不納気は腎の働きの低下と、肺の働きの低下が合わさった結果(肺腎気虚)と捉えることもできます。

腎不能気の症状

  • 呼吸機能の低下
  • 喘息症状
  • 息切れ
  • 冷え症状
呼吸が浅く、息切れがしやすい。そのため疲れやすい、そんな悪循環。

体力の低下した状態で起こる呼吸機能の低下を、腎不納気と捉えます。特に小児や高齢者に起こる喘息は、腎の働きが未熟だったり、低下していたりすることで起こります。

五臓の肺には、呼吸によって得る気を

腎不能気の治法「補益腎気・納気」。ツボは関元を温める。

腎不納気を治療する方法を、「補益腎気(ほえきじんき)・納気(のうき)」と言います。これは、腎の気を補って元気にし、納気の働きを高めましょう、という方法です。

治療として補益腎気・納気を目指す場合、任脈に所属する経穴(ツボ)である「関元(かんげん)」を温めることが多いです。関元は「丹田(たんでん)」とも言われる部位で、深い呼吸と関係するツボです。

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【腎気不固】腎の失調+気の「固摂作用」の低下

五臓の腎の失調に加え、気の固摂作用の低下によって「腎気不固(じんきふこ)」という状態になります。腎は二陰(にいん)をつかさどる臓器なので、腎の働きが低下することで、二陰が緩み、尿や便などが意図せず排出されてしまいます。ここでいう二陰は、肛門と泌尿生殖器を指します。

腎気不固の症状

  • 尿漏れ、残尿、失禁など
  • 大便失禁
  • 意図せぬ射精(夢精など)、早漏
  • 不正性器出血
  • 流産の一部
身近なものでは、泌尿器トラブルが多い印象。生殖器のトラブルについては、他の臓の影響も考えます。

二陰、つまり肛門か泌尿生殖器から、意図せず漏れ出る場合、腎気不固だと考えられます。特に尿漏れや失禁などは、泌尿器の取りまとめである腎の失調が根底にあります。一方で不正性器出血については、五臓の脾の統血(とうけつ)の働きの低下なども影響します。あくまで、腎気不固である可能性もある、ということを念頭に入れ、治療を組み立てていきます。

腎気不固の治法「補益腎気・固摂」。ツボは次髎を温める。

腎気不固を治療する方法を、「補益腎気(ほえきじんき)・固摂(こせつ)」と言います。これは、腎の気を補って元気にし、気の働きの一つである固摂を高めましょう、という方法です。

治療として補益腎気・固摂を目指す場合、膀胱に所属する経穴(ツボ)である「次髎(じりょう)」を温めることが多いです。

▶︎気の働きについてまとめた記事はこちら

おわりに

五臓の腎の失調に加え、気・血・水・精の各エッセンスの過不足・停滞が起こることで、体には様々な症状が現れます。東洋医学では、その時出ている症状から、実際にどこの働きの低下が原因なのかを探り、それぞれに対する治療を行なっていきます。

腎には生命力の源である精を貯蔵する働きと、陰陽の根本である性質とがあります。そのため、疲れや体力の減少、寒熱などの症状の根底に腎の失調があることが多くあります。現れている症状から体の状態を正確に知ることで、より的確な治療や養生につながります。

 

鍼灸指圧治療院あたしんち

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