今回は、慢性的な痛みや主訴として多い【肩こり】についてまとめていきます。
「肩がこる」と言っても、辛さを感じる部位は人によって違います。肩の上・肩甲骨の間など、多くの部位に関わる「僧帽筋」という筋肉の特性を知り、よりこりにくい体を目指しましょう。
「マッサージしても、その時は良くなった気がするんだけど長続きしない」
治療家としては耳が痛い言葉ですが、やはり最後は自分自身のケアも必要です。私たちの治療を助けると思って、セルフケアもよろしくお願いします。
目次
外人は肩がこらないの?日本人特有と言われる肩こり
「外人は肩がこらない」と聞いたことがありませんか?
何で日本人だけ…と思うかもしれませんが、一応英語で「こり=”stiff”」と言い、概念として存在はします。また、外人の肩こり患者さんも治療したことがあります。
こうして考えると外人にも肩こりがあると言えますが、姿勢や生活習慣、体の使い方は違います。遡れば、狩猟民族か農耕民族か、洋服か和服か、そんな民族的な経緯も紐解くと面白いのですが、これはまた機会があればまとめてみます。
そもそも、「こり」とは
まず、こっているモノは、筋肉です。筋肉は血液に栄養され、水分や必要な栄養素を蓄え、柔らかさを保っています。
特に筋肉のこりの原因として、下記のような項目があります。わかりやすいよう、肩こりの場合で例示していきます。
- 構造的な過緊張(肩をすくめるような姿勢を続ける)
- 精神的な過緊張(ストレスなどで肩に力が入る)
- 不動(動かさない)
- 姿勢不良・保持(猫背など)
- 冷え
筋肉が動くことで血液の循環も良くなります。そのため、筋肉に力が入っていない(弛緩している)状態でも、血流は低下します。ずっと緊張していても、ずっと弛緩していても、筋肉はこってしまいます。
頭を支える働きもある僧帽筋
詳細は後述しますが、僧帽筋は姿勢保持、特に頭位の保持に関わる筋肉でもあります。デスクワークや最近流行りの「スマホっ首」などで、頭の位置が前に傾くと、僧帽筋は頭を支えるように緊張(収縮)します。
ここで一度、肩や首からは離れて、思い切り肘を曲げて力こぶを作り、できるだけ長く維持してみてください。
疲れますよね?
姿勢が崩れた時、僧帽筋(だけではありませんが)は頭を支えるため、ずっと力が入ります。意識はしていなくても、ずっと力こぶを作っているのと同じように緊張してしまっています。何もしていないのに肩がこる人は、こうした普段の姿勢も気をつけてみると良いかもしれません。
肩こりの原因筋「僧帽筋」の確認
では、肩こりに関わる筋肉の働きと、こる原因を考えていきましょう。肩こりの原因として最も考えられるのは、「僧帽筋(そうぼうきん)」という筋肉です。僧帽筋は肩の上、肩甲骨の間(背中)にも広がる大きな筋肉です。
この僧帽筋の働きや仕組みから、こりを考えます。
僧帽筋の基礎情報
まずは僧帽筋の解剖学的な情報を確認しましょう。
- 起始(筋肉の始まり)
- 後頭骨
- 項靭帯
- 第1胸椎から第12胸椎棘突起
- 停止(筋肉の終わり)
- 鎖骨外側(1/3)
- 肩甲骨(肩峰・肩甲棘)
- 作用(筋肉の働き)
- 上部:肩をすくめる
- 中部:肩甲骨を寄せる
- 下部:肩甲骨を回す
ザックリとまとめると、頭の後ろから腰の上くらいまでの背骨から、肩甲骨に伸びる筋肉です。
筋肉は、起始部と停止部が近づくように作用します。僧帽筋は大きく3部から成り、上中下で働きが違います。
例えば猫背のような背中が丸まる姿勢では、僧帽筋は伸ばされた状態でかたまります。反対に胸を張ったいわゆる良い姿勢の時には、僧帽筋は収縮した状態です。
良い姿勢でも、崩れた姿勢でも、ずっと同じ姿勢でいれば筋肉はかたくなってしまいます。
特徴的な僧帽筋の静脈
僧帽筋の血液循環について、特徴的な部分があります。
中村宅雄、村上弦(2007)『僧帽筋血管支配の特徴』によると、僧帽筋の静脈には、他の筋肉に見られない特徴があります。
- 動脈と伴走しない静脈がある
- 静脈の合流点が、動脈の分岐点の1.5倍
- 静脈弁がない
静脈は、組織に栄養を届け、不要物を回収した血液です。上記の僧帽筋の特徴により、静脈のうっ血が起こりやすく、こりにつながりやすいと考えられます。
一つずつ特徴を確認してみましょう。
動脈と伴走しない静脈がある
新鮮な血液は、心臓の拍動の勢いを受けて動脈を流れています。そして、各組織に栄養を届けた後、静脈から心臓に戻ります。
動脈の血管は弾力に富み、血液を勢いよく送り込むことができます。しかし、静脈の血管は薄く、弾力がありません。弾力がない静脈の血管は、下記の2点により血を心臓に送り込みます。
- 動脈と伴走して、拍動の勢いを借りる。
- 筋肉の収縮を受けてポンプとする。
僧帽筋にある動脈と伴走していない静脈は、主に筋肉の収縮を受けて流れます。そのため、筋肉の動きが少ないとこりやすい構造と言えます。
静脈の合流点が、動脈の分岐点の1.5倍
この点に関しては、肩こりとの関係性を考えたのですが、うまい説明が思いつきませんでした。
静脈弁がない
先述の通り、静脈には血管自体に弾力がなく、勢いよく血液を送れません。そのため、大抵の静脈には、逆流を防ぐための弁があります。
僧帽筋を通る静脈には、そうした静脈弁がありません。そのため、静脈のうっ血が起こりやすい構造になっています。栄養素や酸素などと交換に、老廃物を受け取った静脈がうっ血してしまえば、こりにつながります。
僧帽筋の仕組みを踏まえて肩こりを改善する方法
僧帽筋の静脈の特徴を踏まえて、肩こりを改善・予防する方法を考えてみましょう。
今回ご紹介するのは、静脈の流れが悪化しやすい僧帽筋を動かし、静脈還流をサポートするような方法です。僧帽筋をポンプのように大きく動かし、うっ血している静脈を流しましょう。
肩をすくめる
肩をすくめるような動きは、僧帽筋上部の収縮を伴います。肩を思い切りすくめて、ストンと戻す、これを数回繰り返しましょう。
肩甲骨を寄せる
胸を張るようにして、肩甲骨を後ろで寄せるような動きは、僧帽筋中部の収縮を伴います。胸を張り、反対に丸める、これを数回繰り返しましょう。
腕をあげる
僧帽筋下部は、腕をあげる時に肩甲骨を動かすように収縮します。腕を挙げて、下ろして、これを数回繰り返しましょう。
「立甲」のすすめ
「立甲」とは簡単にいうと「セルフ肩甲骨はがし」といったイメージです。
肩甲骨と腕の骨のポジションが適切になったり、肩甲骨周りの筋肉がうまく使えるようになったり…そんな効果が期待できます。
おわりに
今回は、僧帽筋を通して肩こりを考えてみました。もちろん、肩にある筋肉は僧帽筋だけではありませんが、姿勢や対策の部分は似通っています。
デスクワークが中心の時代、30分に1度くらいは、ふと一息ついて、肩を動かしてみてください。
鍼灸指圧治療院あたしんち
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